日々是好日毎日御元気

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梶原理沙子のユウウツ<13>

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「どうしたのよ、融け過ぎちゃうと美味しくないって」

 佐々木はそう言うと、早くも2個目にてを伸ばしていた。手の中のそれはまだひんやり冷たくて、柔らかい表面に歯を立てると、やっぱりその食感は雪見だいふくのようなんだけれど口の中にそれとは全然違った甘さと香ばしさが広がった。

「・・・なにこれ」
「さぁ、なんでしょう」

 クスクスと笑う佐々木は、「私のはブルーベリーなのよ」とかじった断面を見せてくれた。なんとなく紫色の餡子、ふにゃんとたわんだお餅の中で、真ん中のクリームソースがとろりととろけて見ただけで美味しいとわかる。

「あなたのは一番人気なんですってよ」

 へぇ、と声に出してもう一口食べてみると、舌にのった香ばしさがおなじみのあの味のものだと気がついた。

「カラメルソース・・・?」
「正解~、それってね、『キャラメルプリン』なのよ」

 ああ、プリン、そうかこの餡子はプリンなのね。
 ほんのりと口の中に広がる甘さをもう一度確かめて、後から付いてくるソースの味に知らず頬が緩んでくる。
 おいし。

「ふーん」
「・・・な、なに?」
「そういう顔もできるんじゃない」

 佐々木は、「じゃあ次はこれ」と言って2個目を私に差し出した。

「・・・たかが男の一人や二人、そんなに思いつめるもんじゃないわよ」
「え?」
「どうせ、日浦でしょう?」

 すっと伸びた手が、今度は自分用に3個目を取り上げた。

「まだ若いんだもん、無理もないよなー」

 ぱくん。
 大きな口を開けたかと思うと、佐々木は一口でそれを頬張ってしまった。



「男の人って、女ほど思い切りがよくないのよ」

 若いうちは尚更ね。
 佐々木はモチクリームを3個食べたところでコーヒーを取りに行って、ついでだと言って私にはカフェオレを淹れてきてくれた。

「昔ね、言われたことがあったわ。君は僕と仕事とどっちが大事なんだって。そんなこと訊かれるなんて思ってもみないじゃない?バカじゃないの、って言ったら怒っちゃってね、それっきりみたいなものだったわ」
「それっきりって?」
「ああ、離婚したの」
「離婚っ?」

 うそ、佐々木さん結婚してたの?
 驚いて洩らした一言に、「嘘ってのは何よぉ」と笑いながら、

「でももう10年近く前の話になるのよ」

 そう言って話をし始めた。



 あのね、学生結婚だったの。
 当時は私の周りではそれが流行でね。大学に入ってからはわたし、親元を離れて一人暮らししてたのね、実家が岩手で大学はこっちだったでしょ?女子寮なんて洒落たものはないし、バイトしながらのアパート暮らしだったの。でも楽しかったわよ、サークルに入って友達と合コン行って、もうわたしの頃はバブルって訳じゃなかったからそんなに派手じゃなかったけど、でもまぁそこで知り合った人と付き合うことになってね、2つ上の人だったけど、なんていうか、そのときは頼りになるなって思ったんでしょうね。だってさ、大江健三郎がノーベル賞とったらそのことを真っ先に話題にして、『遅れてきた青年』だなんてのを持ち出して解説してくれたりしたのよ、これは戦争に行けなかったって言うのを実現できなかった自己への逃避だとかって訳のわかんないこといって、でもそれって凄くかっこよく見えたのね。その次の年かな、一緒に暮らしだしたのは。
 最初はよかったのよ、ちゃんとしなくちゃいけないって言って私の親にも挨拶に行って、で籍も入れて大学にだってちゃんと行って、そうねぇ、結婚って言うよりも同居って言った方がよかったのかもね。今考えるとままごと遊びよね、たぶん。
 1年くらいは普通に過ぎたのよ。なんだけど4年生になった彼の方はなかなか就職が決まらなくて、こっちは2年でそろそろ将来のことを考えようかなって、そんなときにお腹に子供がいることがわかって、わたし驚いちゃってね。

「驚いたって・・・」
「だって、そのときは現実感がなかったんだもの」

 で、1年間休学して子供を産むことにしたの。
 二十歳だったわね。若いってことだったのよね、何とかなるって思って実家に帰って、だんだんと自分が身動き取れなくなるじゃない?心配になってきてね、彼は何度か来てくれるんだけれどそれだってなんだか彼ばっかり自由なようで悔しくてね、子供を産んで3ヶ月過ぎた頃かな、大学に戻るって親に宣言して一緒に戻ったのよ。

「お子さんも一緒に?」
「そうよぉ、だってわたしの子だもん」

 就職したばかりの彼のところで親子3人、そりゃ大変だと思ったけれどやろうと思えばなんだって出来るのよ。保育園だってまだその頃は今と違って定員だから入れませんなんていわれることも少なかったし、大学にだって連れて行ったし。
 でもそういうのが、嫌だったみたい。
 今思うとねー古いタイプの人間だったのかもね。わたしが就職活動してる間はまだ協力的だったんだけど、ここの会社に決まってこれからは社会人として働くんで協力お願いねって言ったら、「君は僕と仕事とどっちが大事なんだ」って言うのよ。子供は誰が見るんだとかさ、そんなの二人で見ればいいじゃない、親なんだもの。急に熱出したらどうなるだとか、病気の時はどうするだとか、心配ばっかり。僕は君たちを養ってるんだとか言い出して、でどっちが大事とかって訊かれてもねぇ。

「で、バカじゃないのって、言ったんですか」
「そうなのよねぇ、そしたらその日出てっちゃって」
「えっ」
「そうなのよ、出てってから戻ってこなくって」
「戻ってこないって、佐々木さん」
「ああ、でもちゃんとその後話し合って、で離婚に至ったのよ」

 だからね、若いうちの男の人ってこうだからこうって言う考えがないって言うか、なんとなーく流されちゃって追い詰められると爆発しちゃうって言うか、女みたいにきっぱりこうしようって思い切るってことが出来ないのよ。

「そんなの相手に、思いつめたってしかたないと思わない?」

 ちょっと泳がせとくっていうかさ、手の上で転がすくらいの気持ちでいたらどうよ。
 ふふん、と笑いながら言う佐々木が、なんだかいきなり凄く大きく見えた。自分が佐々木のパターンと全く同じだとは思えなかったけれど、でも最後の一言は強く心に残った。

「そうですね」
「ま、苦労しない程度にがんばんなさいってことね」

 残りはお土産にしよ、と言って名前を書いて冷蔵庫に仕舞う佐々木に、「今お子さんとはご一緒に住んでるんですか?」と訊いてみた。

「母が8年前から一緒に暮らしてるんで、面倒見てもらってるわ」

どうりでお子さんがいるだなんて全然わからなかった、と洩らしたら、

「そりゃ話さないもの。課で知ってるのは課長だけよ」

 あなたもこれはオフレコね。
 そう言って、じゃあね、と佐々木は手を振ってラウンジから出て行った。









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