日々是好日毎日御元気

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エクストラ・ドライ

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 意を決してかけた電話なのに、期待に反して6回鳴っても反応がなかった。

「・・・あれ?」

 一度耳から離して、今かけた履歴を確認する。ちゃんと主任のナンバーで、そこにかけているのは間違いなかった。
 じゃあもう一回、今度はもうちょっと鳴らしてみようと思った10回目、物腰柔らかな声がにこやかに教えてくれた。

『留守番電話サービスに接続します』
「主任・・・」

 電話が留守電になってる。いやそれはいいんだけど、でも、留守電?
 おかしいな、と思ってもう一度かけなおして、やっぱり10回目で留守番電話サービスに繋がったので僕は携帯電話をパチリと閉じてしまった。
 電波の届かないところじゃなくて、留守電。
 それにどんな意味があるのか、まさか僕からの電話に出たくないからって、そんなことはないよな・・・・・と結構気弱になりながら店の中に入ろうとすると、手の中で軽やかな着信音をさせながら携帯電話が震えた。

「もう・・・電話に出れないからってメールって・・・・・あれ?」

 てっきり、主任からだと思ってた。
 でもそこに表示されていたのは中山取締役の名前だった。


 メールを確認しながらカウンターに向かうと、荒木さんが手を上げていた。
 連絡が来たことを話そうと顔を上げると、視線の先でなにやら先輩にささやいた顔が一瞬だけ強ばった。
 なんだろ?
 気になるな、と思った僕の耳に「きつめのマティーニね、今お作りしますよ」と可笑しそうに笑う先輩の声が聞こえてきた。
 なんだ、そういうことか。
 きっと先輩はまたいつもの調子のまま、荒木さんをからかったに違いない。先輩の作るマティーニは当然ながら僕は飲んだことがないけど、前に一度だけ『もの凄くドライだから』と自慢するのを、そんなの作れっこないじゃん、とからかった客に飲みきったら金は要らないからといって差し出したのを見たことがある。だいたいマティーニ自体が辛口で有名なカクテルで、ジンとベルモットの割合を5対1にするのが通常だろうけどさ、とその客が連れの女の人に言っていた。で、ジンはビーフィーターで、とかって言っててあとからそれが1820年から変わらぬ作りをし続けてるロンドン・ドライ・ジンだって教えてもらって、そのときは銘柄にまでこだわるなんてこの客ってば通なのか、と思ってたんだけれど。
 先輩ってばそれを10対1で作ったんだ。

「うわ、先輩のってマジでキツイって話なんですよ」

 その客は結局「マジかよぉ」と言いながら突っ返していたもんな。
 それを思いだして荒木さんに言ったのに、ふっと笑うと、

「まぁ、飲めればなんだっていいんだって」

 とあっさり流してくれちゃった。

「ああ、ところで理沙子には連絡ついた?」

 スツールに腰掛けた僕に、頬杖をついた格好で流し目をくれる。僕は手にした携帯電話をかざして、「それが・・・」と溜め息混じりに答えた。

「留守電なんですよ、なんか」

 ええと、そりゃありえる話だから別に気にしないけど、うーん、・・・気にしないけど。
 自分にそう言い聞かせながら、僕はだんだん自分の言葉に反して気になっていった。荒木さんから主任が異動の話が出てるってのを知ってるって聞かされて、電話してたんだ。だけどその主任とは連絡が付かなくて、なんだか今声が聞けないってのが不安になってきちゃって。
 でもじっと僕の手元を見つめる荒木さんに、この不安を悟らせないように明るく言った。

「そのかわりって言っちゃ何ですけど、取締役から明日の連絡が来ましたよ」

 東京駅午後1時32分発のJR新幹線Maxとき325号、新潟へはそれに乗っていくと言うのがメールの内容で、待ち合わせは八重洲口のスタバ、そこに1時集合、というもので、

「スタバってどこにありましたっけ」

 と荒木さんに聞いたら、

「一緒に行くよ」

 と笑われた。

「あ、でもおかしいな」

 ガザガザ、と脇に置いたナイロンと革のコンビのブリーフケースに手を突っ込むと、中から自分の携帯電話を取り出した。

「俺んとこには理沙子から連絡が来た」
「え?」

 ほら、と差し出されたのはメールの着信履歴。さまざまな会社や名前の一番上に、『りさこ』と表示されていた。

「中身は今君が言ってたのと同じ、和孝が理沙子に送って、それが転送されてきたんだと思ってたけど」

 なんだか違うみたいだね。
 ふーん、と二つの携帯電話を見比べて、すぅっと目を細めた荒木さんが自分のをバシンッと叩き付けるようにして閉じたのに僕はぎょっとして目を見張った。
 なんだ?


「・・・お待たせ」

 ぎょっとした僕が、カウンターから身体をすこし離したところに先輩がカクテルグラスを差し出した。無色透明な液体にレモンの皮が一片だけ浮かんでいる。

「エクストラ・ドライ、ベルモットはノイリー・プラットを使いましたけど、よかったかな?」

 何を言ってるのかさっぱりわからない僕の隣で、「本当に辛口なんだな」と言った荒木さんは、グラスを持ち上げるとそれを一気に飲み干した。




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