日々是好日毎日御元気

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荒木祐志の心情 蒼山学院大学編

 それはただ、誘われただけって言うほんの出来心から始まった。

「な、頼むよ荒木」

 パシン、と手を合わせたのは同じゼミを取っている真鍋で、『産業競争力と人的資源の活用』という企業というよりもその中の人の活用を考えて毎回「自分ならどうする」「人をどう見る」「どう使ったら効率がいい」といった質問が投げかけられる、教える側教えられる側という垣根を取り払ったディスカッションが面白いなと思う授業だけれどそこで結構一緒にチームを組んでいる男だった。

「頼むって、俺関係ないし」
「関係なんてどうだっていいんだって、頭数そろえば」
「頭数ってねぇ」

 手を合わせたまま、チラリと見上げてくる顔を睨んで、目が合っても悪びれずに笑い掛けてくるのに「仕方ないな」と言ってしまう。

「え、いいの?」
「いいのってさ、お前俺が断るだなんてこれっぽっちも思ってないだろ」
「そりゃーだって、相手は青蘭だもん」
「・・・・・お前」

 その言い方、まるっきり下心アリアリだっての。
 はぁ、と大きく溜め息をついてアピールしても真鍋にはただのポーズにしか見えないようで、それじゃあ明日な、めいっぱいかっこつけて来いよっとバシバシ肩を叩いて「じゃあなぁ」とバカみたいに手を振りながらここ、第一カフェテリアを出て行った。


「・・・なにあれ」
「へ?」

 真鍋につられて手を振っていると、後ろからぼそりと呟かれた。
 ぞわっとして振り返ると、肩越しににやりと笑った顔があった。

「中山先輩」
「よ」

 なぁ、なにあれ。
 馴れ馴れしく肩に触れて隣に座ってきた同じ経済学部の先輩に、内心「勘弁しろよ」と悪態をついた。学部が同じというだけで、特にサークルにも入っていない荒木がなぜこの中山を先輩と呼ぶのか、それはさっきの真壁も取っているゼミの教授が原因になっている。
 1年のうちなんてさほど教授に顔を覚えてもらう機会なんて無いはずが、あるレジュメで荒木が出してきた問題点を過去に同じように指摘してきた学生が居る、とその教授が思い出してわざわざその学生と引き合わせたというのが始まりだった。その学生が今隣に座っている3年の中山で、以来何かというと声を掛けてきてはそれ誰よ、と訊く周りの友人に「可愛い後輩」を連発するのだ。

「なにって、同じ1年の友達ですけど」

 返事をしないといつまでもうるさいからな、と既にかなり学習した荒木は、中山が指差すもうかなり小さくなった真鍋の後姿を見ながらそう応えた。

「じゃなくて、なんか話してたろ」

 うん?と爽やかな顔で聞いてくるのはなんか反則だ、と間近に迫った中山から少し身体を離しながら思った。そうでなくてもまるで探知機でも持ってるんじゃないかと思うほどどこにいたって見つけられて、今何してただの次はどこに行くんだだのしつこく訊いてくるのだ。普通ならうんざりして相手にもしないところなのに、こうしてにっこりと人懐っこく笑われては、応えないという方が悪い気になってしまう。
 これも一種の特技みたいなもんなんだろうな、といつも大勢の仲間が一緒の中山の、人脈の多さの理由を見つけたように思った。
 そうして、それは自分には無いものだとも思った。いくら望んでも、絶対に手に入らないものだとも。

「サークルのコンパに誘われたんですよ」
「サークルのコンパ?」

 荒木、お前ってなんかサークルに入ってたっけ。
 不思議そうな顔をされて、即座に顔を横に振った。きっと何かが楽しくて集まっているんだろうけれど、自分には理解できないものだった。たとえば真鍋の入っているサークルは表向きテニスの同好会と言うことになってはいるけれど、ちゃんとした『テニスの同好会』は別にきちんとあるし、そっちはコーチもいて練習も合宿も年間予定を組んでやっているのに対して、真鍋たちは『蒼山学院のテニス同好会』というブランドを引っさげて近隣の女子大とコンパだパーティーだと遊びに費やす時間の方がメインになっている。そんな彼らに何のために大学に来ているんだと眉を顰めるのは簡単だったけれど、どうしてか真鍋に対しては「いい奴」という印象しかなかった。
 たぶん中山とは違った意味で、自分はこうはなれないと思っていたのだ。

「一人足りないからって、誘われたんです。明日、相手は青蘭だって」
「青蘭女子大、へぇレベル高いね」
「らしいですね」

 言葉短かに説明すると、これでいいだろうとそこで席を立とうとした。午後からの1コマのあと1時間の間を空けてもう1コマ授業がある。それにはまだ少し早いけれど、昼飯時を過ぎて出入りする人が少なくなったとはいえ、大学構内でも一番目立つところにある第一カフェテリアでいつまでも中山の隣に座っているというのもどうかと思った。

「じゃあ」

 広げていたテキストやノートを簡単にまとめると、小脇に抱えて立ち上がった。

「・・・ねぇ」

 軽く会釈をして身体の向きを変えたところで、最後に残った左手をすっと伸びてきた手につかまれた。

「行くんだ?」
「え?」

 確認するだけといった声色なのに、その手に力がグッと入ってわずかに引き寄せられたような気がした。思わず抵抗して腕を引っ張ると、たいして苦労もなく中山の手が離れたので、なんだ気のせいか、と訳もなく安堵して「はい」と答えた。

「ふーん」

 荒木は顔がいいからモテるだろうな。
 低い声でするりと言われたのはそんな一言で、何を言っているんだ、と振り返ったときにはもういつもの笑顔で「じゃあな」と手を振られた。
 もう一度会釈をすると、今度はもう振り返らないでカフェテリアの出口を目指した。すれ違いに「和孝っ」と手を振って駆け寄った女の人がいたのに気がついて、モテるのはどっちだよ、と言ってやりたくなった。


 広いカフェテリアの端まで来た時、荒木は一度だけ振り返った。
 するとさっきすれ違った女の人以外にももう一人、そばに髪の長い女の人を侍らせた中山のもうこっちを見ていない姿が視界に入ってきた。





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新潟行きの前にどうしても踏んでおきたい荒木祐志と中山和孝の大学時代編。
BLに行きそうになると思いきや、という展開ですのでBL好きの方も苦手な方も、ある程度お付き合いくださいませ。

「その日 7月16日」の合間に時々UPしていきます。


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